29.人生の鍛錬 小林秀雄の言葉

人生の鍛錬―小林秀雄の言葉 (新潮新書)

人生の鍛錬―小林秀雄の言葉 (新潮新書)

 小林秀雄の数々の名言集(おそらく)。批評の巨匠ともいえる小林秀雄に関してはほとんど初心者。そんな初心者にまさに大トロの部分をえりすぐって食べれる優れものだと思う。とはいえ、大トロばっかり食べて続けるのが多少大変なのもまた事実。論理的かつ難解な文章で有名でもあるみたいだし。それに、一つの文章を丸々読み込んでこそわかるものが多くあるはず。そういう意味ではある種の邪道かもしれない。
 それにしても、批評対象が幅広い。作家論、古典論、美術論、学問論、音楽論などなど。


 付箋を貼ったものも数多いので2つだけピックアップ。

 実行をはなれて助言はない。そこで実行となれば、人間にとって元来洒落た実行もひねくれた実効もない、ことごとく実行とは平凡なものだ。平凡こそ実行の持つ最大の性格なのだ、。だからこそ名助言はすべて平凡に見えるのだ。

 ただ鑑賞しているということがなんとなく頼りなく不安になって来て、何か確とした意見がほしくなる。そういう時に人は一番注意しなければならない、ある意見をも定めて鑑賞している人で、自分の意見にごまかされていない人は実に稀です。生じっか意見がある為に広くものを味わう心が衰弱して了うのです。意見に準じて凡てを鑑賞しようとして知らず知らずのうちに、自分の意見にあったものしか鑑賞出来なくなって来るのです。いろいろなものが有りのままに見えないで、自分の意見の形で這入って来るようになります。こうなるともう鑑賞とは言えません、ただ自分の狭い心の姿を豊富な対象の中に探し廻っているだけで、而も当人は立派に鑑賞していると思い込んでいるというだらしないことになって了います。